Cook

彼の移動手段は、もっぱら自転車だ。
ゆえに、ニューヨーク中の裏道という裏道を知り抜いている。
彼はイーストヴィレッジにある小さなカフェの雇われシェフ。
名物の卵料理は、口うるさい地元っ子たちからも熱狂的な人気を呼んでいる。
端正な顔立ちに、飾らない人柄。
メガネの奥の目は絶えずやわらかな微笑みを浮かべ、
かつてはベッドフォードホテルに暮らす美人シンガーと密かに交際していたという噂も囁かれていた。

朝8時。
いつものように自転車でウイリアムズバーグ橋を颯爽と渡りながら、彼はその日のメニューについて考える。
今日は新鮮なマッシュルームが入荷される日だ。
TODAY’S SPECIALはオムレツとカリカリに焼いたベーコンにしよう。
そんなことを考えながら、彼は朝陽を受けて眩くきらめくイーストリバーの水面に目をやる。
そういえば随分、旅に出ていない。
彼は優れた料理人でありながら、筋金入りのバックパッカーでもあった。
世界中のあらゆる国を巡り、その土地の空気に触れ、酒を酌み交わし、
ストリートフードを食べ歩いては料理の奥深さを全身で吸収していた。
ニューヨークに住んで5年。
気づけばこの居心地の良さにどっぷりと浸っていた。
が、胸の奥から囁く声が日に日に大きさを増していく。このままでいいのか?

「そろそろかな…」
彼は呟くと、ギアを一段上げ、
緩い勾配を一気に駆け上がった。

※ストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

BFH-08 BRSS
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