Film director

彼のプロジェクトは完全に行き詰まっていた。

ブルックリンを舞台にした、トランスジェンダーのラブロマンス。
ソーホーのブティックとイーストビレッジのデリを掛け持ちして働きながら、
脚本を2年がかりで書き上げた彼は、撮影クルーをアサインするための資金繰りに奔走していた。
目標の額にようやく手が届きそうなタイミングで降って湧いた、世界的な金融恐慌(それがリーマン・ショックと呼ばれることを、彼ははるか後に知ることになる)。
空前の好景気に沸いていたニューヨークの街も人影が減り、街全体が重苦しい空気に支配されていた。
新たなスポンサーのあても途絶え、彼の映画は、いよいよ崖っぷちと言える状態にあった。

メガネをずり上げながら安いバーボンを啜り、
彼はもう何時間も、ベッドフォードホテルの名物バーテンダーであるジェリーに愚痴を吐き続けている。
やがて話すことにも疲れ果て、チョコレートの包みを弄びはじめた彼を横目で見ながら、
それまで黙ってグラスを磨いていたジェリーがその手を止め、静かに語りはじめた。

「あなたのその苦労は、
かつて、あの人が乗り越えた壁に比べたら、
ネズミの糞みたいなものだ」

※ストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

BFH-06 DMBR
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