Banker

10月後半のニューヨークが、彼は一番好きだ。
風が一気に冷たくなり、道ゆく人々は慌てて外套を羽織り出す。
ハロウィンを目前に控え、なんとなく浮き足立った街を散歩する時間を彼はこよなく愛している。
ベッドフォードホテルにおいて、彼はきわめて異色の存在だ。

投資銀行の敏腕ディーラー。
クレリックシャツに品の良いネクタイを締め、ネイビーのジャケットを隙なく着込み、
メタルフレームのメガネをやや神経質に触りながら、
ウォール・ストリート・ジャーナルを小脇に抱えてロビーを毎朝颯爽と横切っていく。
君のような人間が、なぜこんなところに?
他の住人たちからそう訊ねられるたび、彼は笑って受け流す。
ベッドフォードアベニューを見下ろす角部屋の、窓際に置かれたソファに身を深々と沈め、
クルマのヘッドランプを眺めながら、アート・テイタムのLPを聴きながらアイリッシュコーヒーを愉しむ。
それが彼にとってこの上なく幸福な時間。
多くは望まない。こんな生活が永久に続けばいい。

そんな彼のささやかな願いは、
ある月曜の朝、一本の電話によって打ち壊された。

「すぐにニュースをつけろ。
なんてことだ、
株の底が抜けちまった!」

※ストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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