小学校にあがる前の未就学児の視力の低下は、子ども自身が「見えていない」ことに気付きにくいため、発見が難しいといわれています。視力の低下をそのままにしていると目の調節力を酷使してしまい、目に大きな負担がかかってしまうことも。そうならないためにも、普段の何気ないしぐさや行動から「視力低下」のサインを見逃さないことが大切です。子どもの目の健康を守るためのポイントを眼科医の西之原美樹先生にうかがいました。
小学生以上の子どもの視力に関しては、こちらの記事で取り上げています。
アイリスター麻布クリニック院長
西之原 美樹先生
東京大学附属病院で研修後、東京逓信病院に勤務。
2004年アイリスター麻布クリニックを開業。
1万人以上の高校野球球児や野球選手、サッカー選手などアスリートの視力機能の向上に携わっている。目から身体全体の健康に関するアドバイスも行う。
日本眼科学会 / 日本レーザー治療学会
日本麻酔科学会 麻酔科標榜医 / 日本美容外科学会
日本ペインクリニック学会 / 日本抗加齢医学会員 / 産業医 等
子どもの視力は、年齢や身体の成長によって変化します
0歳から6歳児の子どもは、年齢によって視力や見え方が異なります。生まれてすぐに視力が1.0あるわけではなく、徐々に視力が成長していきます。その一方で、子どもの視力の低下スピードは大人より早いことがわかっています。この時期の子どもの身体の成長は著しく、身体の成長に従って眼球も大きくなり、眼軸が伸びることで視力が低下する可能性も高まると考えられています。
まずは、その事実をしっかり理解しておくことが大切です。
――0歳から6歳までの子どもの視力の成長について教えてください。
あくまで目安ですが、生後1か月では、顔に近いところで手が動いたのを感じるくらいの視力です。生後2か月くらいになると人や手など動いているものを追いかけ始め、生後6か月では色の識別などもできるようになります。
【子どもの視力変化(目安)】
・生後6か月:0.04〜0.08くらいの視力
・1歳:0.3くらいの視力
・2歳:0.5〜0.6くらいの視力
・3歳:0.8くらいの視力
・6歳:1.0らいの視力
しかし最近の発表では、2・3歳児でも、もっと見えているという報告もあります。
また5歳くらいまでは、医学的にいう遠視気味ですが、だんだん近視に傾いて6歳くらいで近くも遠くも、ともにピントが合うように変化します。
――6歳以下の子どもには、どのような視覚障害が多いのですか?
子どもの目の病気でよく知られているのは、「未熟児網膜症」という出産時に起こる病気や、「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」という遺伝性の病気です。
日常的な診療では斜視や弱視を多く診ています。弱視は矯正レンズをつけても、視力が0.6以上にならない状態です。早い段階で対応すれば治療できる場合もありますので、迷わず専門家に相談してください。
――視力は親から遺伝すると言われたりもしますが、それは本当ですか?
これだけ医学が発達した現代でも、近視の遺伝形式については、まだはっきりわかっていません。ただ、親の近視が強い場合、子どもが近視になる確率が高いと言われています。しかし、その原因がもともとの体格や体質が似ているためなのか、生活習慣が似ているためなのか、など諸説あり、はっきりとしたことは言えません。現在、近視が進行する原因として統計上わかっていることは、眼精疲労の蓄積によって起こるということです。
こんな行動に注意! 視力変化のサインとは?
――普段の生活の中で、視力低下のサインとなる子どもの行動や様子を教えてください。
落ち着きがない、目を細める、頻繁に目をこするなどの動作です。人間の目は「ピンホール効果」といって、目を細めると少し見えやすくなります。そのため、物が見えにくい子どもでは目を細める癖がついているケースがあります。
また、よく見えていないことで物にぶつかったり、つまいずいたりしてケガをする、色盲や色弱で色の判別が難しく、絵本に描かれていることがわからないなども一つのサインです。保育園・幼稚園などに通っていたり、兄弟姉妹がいたりする場合では、他のお子さんと比較ができるので気付きやすいでしょう。まれに先天性や遺伝性の病気もありますので、血縁にそのような病気をお持ちの方がいらっしゃる場合は、より注意して子どもの行動を観察するようにしてください。
家庭で行える、視力変化のチェック方法
――子どもの視力をチェックするために、家庭でできることを教えてください。
大人と違って、子どもは視力測定時にはっきりした返答が得られず、見えなくても本人がそれを自覚して主張することが少ないので、周囲の大人が発達に乗じた見え方をしているかどうかに気付いてあげなければいけません。他の子どもと比較して明らかに見えていないなど、生活に支障が出ている場合は視力発達がうまくいっていないことも考えてみたほうがいいですね。
例えば、お気に入りのおもちゃや絵本を使って、どのくらい離れて見えているかなどチェックしてみてください。また、ボール遊びの際には、ボールの動きが見えているかどうかも大切な情報になります。
注意深くお子さんの様子を観察して気付いたことがあれば、どういう状況で、どのような変化があったか、それはどのくらいの時間だったのかなど、忘れないよう日記などに記録されると良いと思います。専門家に診てもらう際、些細な情報が役に立つことがあります。
また、弱視や左右の視力差が大きい不同視、視線が中央にうまく合っていない斜視などは、早めに異常を確認して対応することによって重症化を防ぐこともできるので、日頃の観察が大切です。
お子さんの日常生活での行動を観察していて、おかしいなというサインを感じたら、自己判断せずに専門家を受診してください。親御さんは不安や動揺もあって、受診の際にお子さんの状態をうまく説明できないことがあります。そのような時にこそ、変化に気付いた時に書きとめておいた記録が役に立ちます。それに加えて、写真や動画などでも記録しておくと、お子さんの状況を把握しやすくなることで、私たち医師もより的確なサポートができます。
ご家庭でタブレットなどの使用のルールを決めて子どもの目を守ろう
――子どもの目の健康を守るために、普段の生活でできることはありますか?
天気の良い日は、日中2時間以上屋外に出て、日の光に含まれる紫外線を浴びると近視の進行が抑制されるという研究結果があるので、適度な日光浴も良いでしょう。食事面では、ビタミンなどを意識的に摂取するようにしましょう。栄養バランスの整った食事も大切です。
色覚などの感受性、視神経の発達は3歳くらいまでに盛んに行われるため、タブレットの人工的なまぶしい光よりも、自然光に触れさせることが大切です。屋外の樹木の色など、自然の物を見て目を発達させたほうが、情操教育の点からもお子さんの将来のためになるかと思います。
――「○歳まではタブレットなどを見せないほうが良い」など、目安はあるのでしょうか?
大前提としてタブレットなどの利用はおすすめできません。とは言っても現代社会では、タブレットなどのデジタルデバイスを避けて通ることができないのが現実です。使用時間が長ければ長いほど目へのダメージが大きいため、日常的に長い時間見ることで近視をはじめとする目の障害が起こりやすいと言われています。
そのため、ご家庭でタブレットなどを利用する際のルールをつくって、意識的に目を休める習慣をつけることが一番大事です。30〜40分に1回程度、5分〜10分ほど画面から目を離して遠くを見るという習慣づけをしていただきたいです。画面をだらだらと眺めているのではなく、目的を持って集中して見る時間をあらかじめ決めておくことも必要だと思います。
――タブレットなどの設定方法などでやったほうがいいことはありますか?
タブレットなどの画面のトーンを少し暗くして、ベースの色を白やブルーではなく、グレーや、くすんだグリーンにしてみるなどの工夫も大切です。画面を見続けているとメラトニンという睡眠ホルモンの分泌が邪魔されますので、お子さんが熟睡できるように就寝の1時間前には画面を見ないようにする習慣を心がけましょう。
――子どもにタブレットを使わせる際に、目への負担を軽減する正しい姿勢があれば教えてください。
以下のポイントを意識して使うことが大事です。
1 部屋の照明をタブレットの画面と同じ明るさにする
2 タブレットと顔を30cm離す
3 タブレットの画面を傾けて角度をつける
4 部屋の照明の光がタブレットの画面に映り込まないようにする
5 背筋を伸ばしてイスに深く腰掛ける
6 床に両足をつける
見え方の変化に寄り添って、ご家庭でできるオリジナルチェック
子どもが瞬間的に感知できるのは「4色」までと言われていて、その情報によって物の形や色の違いを理解していきます。こうした目の成長を一般のご家庭で測るには、子どもの年齢に合わせて作られている絵本がおすすめと、西之原美樹先生が教えてくれました。
眼鏡市場では、ママさん社員たちが中心となって、子どもの見え方の変化を楽しみながら知ることができる「見えるかなチェック表」を作成し、無料で配布しています。ご家庭での視力チェックの際に、ぜひご活用いただければと思います。
親子のコミュニケーションのなかで気付けるサインや、生活環境の工夫など、暮らしのなかには子どもの視力を守るためのポイントはたくさんあります。目は子どもの健康を守るうえで欠かせないものです。ぜひ、意識して子どもの目と向き合っていきましょう。